これは友人の琴子さんが私をアメリカに紹介するために、マンガトピアという雑誌に書いてくださった記事です。私のプロフィールを載せるにあたりこれ以上の紹介文はないと思い、長文なのですが半分ほどに抜粋削除して載せることにしました。英語版の智香恵のプロフィールも琴子さんの新創作文です。よろしくお願いしますぅ。
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Mangatopia マンガトピア 伊藤琴子執筆・翻訳より抜粋


日本の女性漫画家、井出智香恵のプロフィール
この章は、日本の代表的な女性漫画家の一人である井出智香恵の人生と作品を紹介する。彼女の作品は、日常生活の込入った人間関係や感情のもつれなどを描き、社会の現実を洞察的に映し出し、いろいろな男女関係も暴いている。井出のマンガは、50年以上もファンたちを魅了している。
はじめにーーchikae-ide

井出智香恵は、1966年、日本の代表的な少女マンガ雑誌、りぼんでデビューした。それ以来、非常に数多くの週刊及び月刊の少女、男性、そして女性マンガ雑誌に、作品を発表してきた。井出の漫画は、りぼん、Be Love, 週刊漫画TIMES、Mystery la comic、MAY、ミステリーJOUR、家族ミステリー、素敵な主婦たち、本当にあった主婦の体験等の雑誌や名作品集などに、載っている。数多くの連載ものは、一冊にまとめらたコミックとして数多くが出版されている。井出の週刊連載物のひとつに「羅刹の家」があるが、このシリーズは週刊女性で6年間続き、「女監察医」は、週刊漫画TIMESに2004年から2009年まで連載された。今まで6万7000枚以上の漫画の原稿を、井出は描いている。

井出の作品のジャンルは、アクション、アドベンチャー、歴史物、サスペンス、ロマンス、SF、恐怖などいろいろあり、また、愛と憎悪、感謝と侮り、幸福と嫉妬、慈悲と復讐など幅広く違う人間の感情が、描かれている。最近、井出は漫画雑誌だけでなく、デジタル漫画のインターネットや携帯電話配給会社との橋渡しの役目をする出版社にも漫画を提供している。以前、井出が週刊や月刊雑誌に発表したマンガや、新しく携帯電話市場だけのために描いたマンガなど、現在、200以上の作品を多くのサイトに提供しており、その数は増え続けている。

井出は、凄い集中力を持っていて、漫画を描いているときは、主人公の感情や思いに余りにも浸かってしまい、しばしば自分で感動をして、目がうるうるし、涙が出たりする。描きながら泣いたりする、と語ってくれた。心から自分の作る特別な漫画の世界を愛し、楽しんでいるのである。井出は現在は京都に住んでいる。


井出の子供時代――


井出智香恵は、1998年に、第18回冬季オリンピックを開催した長野県に生まれた。一番の末っ子で、兄一人、姉が3人いた。日本の子供がすべてそうであったように、井出はとても小さい頃から漫画を読み始めた。当時、どれもよく似た涙を誘うワンパターンの「涙もの」の母子の話がいくつかのマンガ雑誌に載っていた。井出は、すぐに少女マンガには飽きてしまい、ヒーロー、アドベンチャー、アクションがテーマになっている少年漫画を読み始めた。おもしろければ、ジャンルを問わずマンガは好きだった。井出は、「目に訴えるテキストの文化と伝統があり、漫画が長い間存在している日本に、生まれてきてとてもラッキーだった」と、言っている。日本の漫画の歴史は、古代にまでも遡り、漫画は情報を目に伝える形、芸術として、そして非常に多くの人々を魅了する娯楽として、千年以上も栄えてきた。その素晴らしい環境で、井出の目に訴える物語りを創造する才能は全開したのである。井出は、5歳のときに絵を描き始めた。兄が牛若丸の絵本をもっていて、井出は毎日幼少時代の牛若丸の絵を真似しては、描いていた。

ある日のこと、父親がやってきて、牛若丸をとてもうまく簡単に描いてみせた。井出は、父親の才能にとても感心したが、少しうらやましくも感じた。父が描いたように、井出は一生懸命牛若丸を描こうと努力した。そして井出は、絵を描く喜びに目覚めていったのであった。

小学生の時、井出は兄からアガサ・クリスティーの「オリエント特急殺人事件」を借りて読んだ。初めてのミステリー小説だった。辞書で、たくさんの漢字とその意味を調べなくてはならなかったが、本当に楽しく読んだ。それからというもの、井出は、クリスティーの作品すべてを読み、後に家族ミステリー, ミステリー・ジュール, Mystery la comic等に、ミステリーの漫画シリーズを創作、描いた時に、とても役にたったのである。人気の高い有名なミステリー作家の森村誠一は、井出にすべての作品の使用許可を出し、彼の多くの小説が、井出により漫画化された。井出は、言った、「ジャンルに関係なく、サスペンスがいっぱいで、全然期待しない話の展開のミステリーの要素をもったマンガは、より人気があり、読者に好まれますね。読み出したらとまらなく、ヒットします。」

他にも井出は、歴史小説を読んで楽しむのが好きで、彼女のいくつかのマンガの舞台は、大奥や源氏物語の時代になっている。井出は、子供の頃いろいろなマンガを読んだのだが、本当は小説家になりたかった。高校の図書館にあるミステリーの小説本は、ほとんど読み、これが後にプロの漫画家になったときの知識の基礎になった。井出は、大学に行きたかったのだが、父親は、仕事につき結婚するよう諭した。高校を卒業してすぐ家出、上京し、豊島園に就職した。井出の仕事は、広告部で、いろいろな新聞や雑誌の記事を読み、日本や世界の遊園地に関する情報をスクラップブックにすることだった。この仕事のお陰で、世界の一般情勢がよくわかるようになった。毎日、午後5時に仕事を終え、5時半から、真夜中までアパートでマンガを描いた。出版社に持ち込みを続け、6ヶ月で月刊漫画雑誌でデビューした。



少女マンガでのデビュー


ヤッコのシンドバッドーー

井出智香恵は、初めての16ページのマンガ「ヤッコのシンドバッド」で、1966年、12月にデビューした。井出は、「当時、ちょうどいい時と場所に居合わせた」と、言っている。いくつかの週刊、月刊の少女マンガ誌が発刊され発展する中で、非常に多忙な製作スケジュールをこなすのに、多くの女性漫画家たちが必要とされており、その時に、井出のマンガを描く才能は、開花した。出版社は、多くの新人漫画家たちを募集するのに躍起になっていた。女性漫画家は、男性漫画家と比べて賃金は、低かったのであるが、漫画家という職業は多くの少女、若い女性のファンの読者たちにとって、たいそう高い憧れのものになったのである。

井出は言う。「私がデビューした時に、マンガのブームがなかったら、普通の女性になっていたかもしれません。漫画家になる夢が実現したことは、本当に嬉しいし、有難いです。」
Viva! Volleyball! rasetu1 onnakansatui morimuraseiiti
ビバ! バレーボールーー

1964年10月、東京オリンピックが開かれ、東洋の魔女といわれた日本のバレーボールチームは、金メダルをとった。この後、少女マンガでは、スポーツマンシップが人気のテーマとなり、バレーボールは、体操、水泳、スケート、テニスと並んで、少女たちが憧れる花のスポーツになった。井出智香恵の「ビバ!バレーボール」は、りぼんに1968年から1971年まで連載された。
 
井出は、後に夫となる男性に新幹線の中で出会った。背が高く、ハンサム、そして、井出が躊躇なく認める、彼女の好みの素晴らしい体つきであったからである。井出は、言った。「なんていうのかな、彼は、とっても綺麗なボディラインと風貌をもっていたのです。」井出は、30代で彼と結婚をし、息子1人、娘2人の3人の子供を持った。子供たちの育児の間、井出はマンガの仕事を減らさなければならなかった。

不幸なことに、井出の結婚は、彼女と子供への夫の暴力のため、幸せから程遠いものであった。井出は、言った。「もう結婚も家庭も悪夢でした。夫は、財布の紐を握っていたので、私が一生懸命働いて稼いだお金を全部使い果たしてしまったのです。彼は、全然働かず、車にたくさんのお金を使い、借金を作っていました。私が何か言うと彼は子供を殴りました。子供を人質にされたことで私は逃げるに逃げられませんでした。DV地獄の毎日に子供を抱きしめ耐えていたのです。いま思い出しても背筋が寒くなり恐怖のあまり油汗がわいてきます。」
井出は、ガス代が払えなかった日々のことを今でも思い出す。彼女の夫は、ある日のこと、編集の人に腹を立て殴ってしまったので、それ以来20年にわたり、その出版社からは、原稿の依頼がこなかった。井出は、自分の結婚のことを、こう語った。「少なくとも、3人の子供を授かったので、私は幸せだと思います。」井出は、夫との離婚の調停に10年かかった。井出の悪夢的なドメスティックバイオレンスの経験と、夫に対しての怒り、嫌悪、恐怖、憤慨、失望等は、彼女のレディースコミック、「羅刹の家」の登場人物の中で再現されている。「羅刹の家」のテレビドラマ化により、井出は嫁姑関係の専門家とみなされ、テレビ、女性雑誌等で、取り上げられては、インタビュー記事が多く載った。

「レディースコミックが最初に出たとき、エロチックなジャンルのみが注目を集め、一般的にレディースコミックはポルノであると呼ばれました。長年、男性向けのエロマンガ雑誌はありましたけど、女性のエロマンガが出てきたのは、前代未聞だったのね。それゆえに、マスメディアで、騒動を引き起こしたんです。」現在、ソフトポルノのマンガは、レディースコミックのほんの一部でしかなく、多数では絶対ない。井出マンガのトピックは、幅広く、裸を含むシーンもあるが、ポルノ的ではない。彼女の描く裸体は美しく、読者の美の感覚や感情に訴える。井出によると、「恋をしている男と女がいれば、愛情を感じ、一緒に寝るのは自然のことです。愛、ロマンス、セックス、そしてたまに暴力、例えば、強姦、ドメスティクバイオレンスなど、は、大人の読者が期待するところのいくつかであり、売り上げを増やすのです。」レディースコミックが最初に台頭したとき、多くのマンガのヒロインは、独立した個人として、強い自分のアイデンティティや自分というものを持っていなかったのである。

井出マンガの最も新しいものは、社会心理学的な問題や人間性の深刻さ、人間関係の経験をテーマに、描かれている。井出は、言った、「私は、読者の人たちに、いつもの生活の中で、何か重要なことに気がつき、その意義をわかって欲しいんです。以前、気がつかなかったり、考えなかったことに、注意を払って欲しいのです。女性は日常生活のいろいろなことをするのに時間をとられ、人生で大事なことを見失いがちです。私は、読者の皆さんに、愛と心温まる感情を経験して欲しいと思っています。」

「女性っていうのは、自分の立場がどうであり、問題が何か、そして何をすべきか、知ってわかっているんですが、自分のしていることが正しいという一種の安心が欲しいんですね。」 読者たちは、話を人に聞いてもらい、感情的にサポートして欲しいと願っている。井出は、自分の話を提出する読者たちにとっては、自分自身の経験を書くことそのものが、セラピーになり、心理的に満たされるものだと思っている

日常生活に欠けているのもの、欲するもの、それらは、レディースコミックの想像の世界に見つかるかもしれない。多くの女性が手に入らないと諦めたことを成し遂げた女性の創り話を読むこと、それは、身代わりの経験ではあるが、満足がいき、また、元気をもらうのである 。

井出は、面白いマンガを描くことに、ベストを尽くす。彼女は、言った、「レディースコミックの読者には、主婦がいます。彼女たちにとって、家庭の財政はとても重要で、いつも、お金の節約を考えています。お金に関しては、家族のために食料を買うか、自分のために、レディースコミックを買うか、そんな決断をしなくてはいけないことが、よくありますね。」よって、レディースコミックの中身は、読者が払う、だいたい350円から、600円あたりの価値がないといけないわけである。

井出は、レディースコミックが成功する材料は、浮気、セックス、愛、ロマンス、お金、嫉妬、嫌悪、そして復讐であるという。日本の女性読者たちは、上記のすべての要素を含むレディースコミックを好むが、幸せなしめくくりのほうを、より好む。

井出のマンガの中には、読者に寒気のするような恐怖感を与える作品が多くある。私たち一人ひとりの中に羅刹が住んでいることを、見せつけ、自分たちの弱さ、強さ、慈悲、人間としての成長と発達の認識を、深めさせる。「羅刹の家」は、全12巻のコミックとしてまとめられ、電子漫画としていくつかのサイトで現在も読むことができる。TV朝日系のネットワークで、テレビドラマ化され放送され大ブームになったこともある。「羅刹の家」は現在もキンドルの作品コーナーに「日本を代表する女性漫画」として載っている。

井出智香恵は、1966年12月、りぼんでデビューしてからずっと、とても人気の高い漫画家であり続けている。日本の週刊、月刊の少女、男性、女性コミック雑誌に6万7000枚以上の漫画の原稿を描いているが、彼女のマンガは、ポルノの性格はもっていない。彼女の描くすべてのレディースコミックの話は、魅力的な語り口の成功に必要最小限の要素がはいっている。それらは、愛、ロマンス、セックス、浮気、お金、嫉妬、嫌悪、復讐である。井出は、読者たちに彼女のマンガを読むことで、カタルシスを経験してほしいと思っている。更に、話は面白く興味のある娯楽で、期待していなかったどんでんかえしや、ハッピーエンドを必ず含んでいる。もし、不幸せな終わり方をしても、状況は、これからよくなっていくという希望をもって、話を終わらせる。井出は、必ず、話の事の次第が、意味をなし、会話にはエスプリを利かせることを確認する。

井出は、健康オタクである。井出は、ビタミンやミネラルサプリメントを飲み、特別な種類の水やエネルギードリンクを買い、アトリエの机の隣にあるベルトのついた機械の上で歩いたり、時には水泳をし、定期的に運動をしているし、毎晩8時間は眠るように努力している。

マンガを描くことを、井出は、熱愛している。井出は、言った、「描くってことは、私にとってカタルシスなんですね。描かないと、狂ってしまうかも。」井出は、これからもずっとマンガを描いていたいと、思っている。おもしろくて、興味のあるマンガを描き続け、大人の女性が楽しみ、人生を味わうのに役立つマンガの話を、創作したいと思っている。井出は、読者に、マンガから何かを学んだり、人生の中でとても大切な何か、それは、愛情と、心温まる感情なのであるが、それに気づく、そんなマンガをいつも描きたいと思い続けているのである。




著者/訳者紹介

伊藤琴子(いとうきんこ)Kinko Ito, Ph.D.

1987年、米国オハイオ州立大学より社会学博士号取得。オハイオ州スプリングフィールドにあるウィッテンバーグ大学社会学客員助教授を経て、1988年よりアーカンソー大学リトルロック校(University of Arkansas at Little Rock)に勤める。現在、社会学人類学部で社会学教授。専門は、日本の大衆文化、特にレディースコミック。著書に、A Sociology of Japanese Ladies' Comics: Images of the Life, Love, and Sexual Fantasies of Adult Japanese Women、「やっぱり結婚したい」(主婦の友社)、「レディースコミックの社会学・漫画が暴く日本女性の愛欲願望」(アマゾン・キンドル [三矢純子訳])等。海外旅行が好きで80カ国以上をまわり、K.I.Peelerのペンネームで、アマゾンにて電子書籍を発表、Kidnapped!? in Istanbul and Other Stories from Turkey, Hello, Colombia!, Pantyless in Scandinavia and Other Escapades of World Travel, Gourmet Food, Scrub, and Happiness in Body and Seoul, Boutique Designer Boobs and Zen: How I Survived Breast Cancer and Stay Happy in America、 「愛する人を亡くしたら」等。キンドル本は、すべて300円。また、アイヌの高齢者たちが自分たちの人生を語ったドキュメンタリー映画"Have You Heard About the Ainu? Elders of Japan's Indigenous People Speak"(78分)を監督、製作。YouTubeにて鑑賞可能。日英バイリンガル、スペイン語中級。メールアドレスは、 kxito@ualr.edu。

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